05

「マイク、大丈夫か。怪我は」
 手を差し伸べてくる警官の手をとり、俺はやっとの思いで頷く。その隣でおじさんは拘束され、駐在所に連れて行かれそうになると、急に思い出したかのように喋りだす。
「親が他人より自分の子を優先するのは、罪だというのか。息子の命を絶った者がいるのならば、真相を暴き、犯人をこの手で殺してやりたいと思うのは、自然なことではないのか。許すことと諦めることは、一体なにがちがうというのだ……」
 痛々しい声に思わず顔を上げる。目が合った瞬間、おじさんは縋るような目つきで俺に問いかける。
「偽善と我が子を天秤にかけられるものか。私は間違っているのか……教えてくれ、少年マイク。私は……」
 おじさんと俺、どちらもお互いの姿が見えなくなるまで、ずっとお互いを見つめていた。すると、いつの間にか来ていた村人たちをかき分け、母さんが現れる。そして真っ先に俺の元へ駆け寄り、息を切らしながら力一杯抱きしめてきた。
「ジュニア……ああ、よかった。無事でよかった……」
 自分を包み込む体温や匂いが、やけに懐かしく感じる。同時に安心して緊張がほぐれてきたけれど、今の俺にはそれに歯止めをかけるものがあった。俺は反射的に、母さんの肩を押し返してしまう。
「どうしたの、どこか痛むの」
「全然よくない」
「よくないって」
「何も知らなかった。父さんの名前も、父さんがやったことも全部。なんで教えてくれなかったんだよっ」
 俺は勢いまかせで母さんに怒鳴りつける。母さんは一気に顔を歪ませる。でも、母さんもこれ以上隠すのは無理だと思ったのか、初めて拒否以外の言葉を口にした。
「今まで話さなかったのは……私を愛してくれたのに、私たちを置いて先に逝ってしまったあの人を……許せなかったから」
「許せなかったって……」
「アンタはきっと……父さんのことを知れば、どんな風に感じたとしても、きっと心から父親として尊敬し、愛してくれる。でも、あの人は親としてなにひとつ、アンタに返せない……それが、私にはどうしても許せなかったの」
「そんな……」
「……本当に、ごめんなさい」
 そう言ったきり顔を伏せる母さんに、俺はかける言葉が見つからない。母さんだけじゃない。あのおじさんだって、マイク・ジュードという男に狂わされていたのだから。
 誰が間違っていたのか、誰が悪いのか、正直俺にはわからない。だって、国を変えようと戦った父さんは。自分の子供を想う、あのおじさんは、俺の母さんは。
 自分の父親ルーツを知ろうとしていた俺は──間違っていたのか。
 まただ。また、俺にはどうしようもないものが容赦なく襲ってくる。それを俺は受け入れないといけない。そして、俺は。

 母さんの目から涙が溢れている。正直泣きたいのは俺の方だけれど、もう一三歳になるのに、母親につられて泣くわけにはいかない。俺は、奥歯が悲鳴をあげるくらい必死に涙を堪える。
 そんな中、母さんの指輪に添えられたダイヤが、涙と西日を受けて青く小さな光を発していた。